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なんかいらつく。いらついてしまうと、ついついそれが仕草や目つきに現れてしまうので困る。 わたしはとても率直なのだ。 といっても世間の人々は、たとえそれが率直さに起因するものであったとしても、わたしにいらつきを見せつけられるのを好まない。それ…
何を成し遂げようが何も成し遂げまいが結局人は死ぬんだよ。 高速道路を走る車の窓から見えるずっとむこうの杉の木にとまった黒いカラスが「かぁ」の形にくちばしをうごかしたと思ったら、それを聞きつけた耳ざといSiriがしたり顔で私にそう告げた。 なるほ…
日向の猫の背をそっと撫でたらお日様の光にきらきら埃がたつような、そんなゆっくりとした毎日にあこがれていた。撫でられた猫は目を細めてわたしのほうにちょっとだけ顔を向け、たつ埃と撫でた私をひどく愛し気に見て声を出さずに「にゃあ」と口だけを動か…
ねこが背中をよじ登る冬。わたしにはよじ登ってくれる、ねこすらいない。 「ねこすらいない」って字面がちょっと「どすこい」に似てるね。 「どすこい」って打とうとしたら候補にドストエフスキーがでたよ。 なるほどね。「どすこい」って意外に文学的なのだ…
自転車通学の女子高生が風に膨らむスカートを懸命に手で押さえながら走って行った。あの高校は確か今年からジェンダーレス制服が取り入れられてるはずなのに。それでもやっぱりスカートを好む女の子もたくさんいるんだろう。 走る車の助手席の窓を風に吹かれ…
デスクのわきのアクリルパネルに貼りつけられた金ちゃんヌードル1万円プレゼントの応募シール2枚をぼんやり眺めながらセブンイレブンのPBの炭酸水を飲んでるなう。炭酸水なう。応募シールなう。集まらないなう。1万円ほしいなう。応募できないなう。やる気な…
洗濯機の底に見慣れた細長いボールペンサイズの何かが落ちているなと思い拾い上げてみると、それはまさしく細長いボールペンサイズのボールペンであった。私のお気に入りのSARASAであった。インクはすべて洗濯後のすすぎの水とともに流れ果て、何とも潔くも…
とんぼがすいーっと、目の前にとんできて、ふっと動きを止めたと思ったら、またすいーっと飛んで行った。 秋なんだよね、秋。 お構いなしに地球は裏返る。くるりんぱのどんでんぱ。 雲がずいぶん早く流れていく。空の上はここより風が強いらしい。 うまく風…
結局家族なのだ。 家族の亡霊から逃れることができなかったのだ。 そのせいでわたしは自分を、自分の若さを、自分の時間を犬にでもくれてやるみたいに無駄にしてしまったのだ。 いや、犬、ごめん。 いきなり悪口をいわれた犬もある意味家族の亡霊の被害者な…
わたしなんて心がそぼろみたいにぼろぼろでほろほろ。醤油と砂糖で煮詰めたら、さぞかし美味しいだろうねなんて、通りすがりのカラスが笑う。だからわたしも笑う。ほら、あなたも笑って。 指をひらひらさせるの。それが合図。 なんの合図かって? さてね。 …
朝起きて1時間くらいしたら、なんだか急に何もかもが嫌になってしまい、ああもう私なんか棒切れかなんかになってしまえばいいのに、いいや、ごまでもいい、ごまの一粒にでもなってすりつぶされてすりごまにでもなってしまえばいいのにと、なんだかめったやた…
すっかり枯れ果てていた木の枝に、ぎゅっとつぼんだ新芽がつき、そのうちの一つはあろうことか、もう双葉を開きさも春が来たかのようななりでいる。時が読めない哀れなつぼみなのか、最初のぺんぎんならぬ最初の双葉、誇り高きパイオニアなのか。 いずれにし…
そうか、生きてたんだ。 車のエンジンを止め、新しいマスクを真ん中でふたつに折りたたんで山折り線をつけている間に、思わずそんな言葉が口を突いて出た。 ただ唐突に、誰のことなのか何の意味かもわからないまま、私の口が動き私の声がそう言った。 最近は…
芋を洗うような声で話しまくる女が今日も芋を洗うような声で話し、わめき、笑っていた。 いったいなんだってあんなにも芋を洗うような声なんだ。 芋を洗うような声のことを、心の中でずっと責めていたら、急にふと申し訳なくなった。 芋を洗うような声は地声…
マスクなんかもううんざりだ。 そう思いながらブラインドをめくって外を見たら変な鳴き声の鳥が鳴いていた。あまりに変だったので姿を見ようとそのあたりを眺めまわしたけど、見つけられない。どこだどこだと思っている間に、もう声は聞こえなくなっていた。…
走って走ってずいぶんと懸命に走って、はっと気づいた時にはもうすでに猫になっていた。推進力を生むために遮二無二前後に振りまくっていた指先には尖った爪が、毛でおおわれた手の甲をひっくり返してみれば、そこには肉球がぺたんとかわいらしく、いや、か…
ひどく強い風が吹きつけてくる。 一体丸い地球のどこから、こんなにも一直線に強い風が吹きつけてくるんだろう。本当に地球が丸いのなら、強い風なんてみんな空へ飛んで行ってしまうはずなのに。 結局のところ、地球が丸いなんて案外嘘なのだ。 それからひと…
なんだかここ数日釈然としない夢ばかりみる。目が覚めてしばらくの間は、その釈然としない夢の中でも、ことさら釈然としない場面ばかりが思い浮かび心が落ち着かない。 怖いのか、嫌なのか、不思議なのか、なんでもないのか、いったいその夢をどう定義したら…
もぐりこんでたんだよ。そう言いながらあの子が顔を出した。もぐりこんでたのかとわたしは思った。なるほどと思ったのか、どうでもいいと思ったのか、その点については考える必要もないことだ。そう思ってそれきりもう何も言わなかった。 黒猫が庭に入り込ん…
夾竹桃はこんなにも綺麗な花だったんだろうかと、白と千尋の歩く径の両脇に高く生い茂げ咲き誇る色とりどりの夾竹桃の花を見るといつもなぜだか少し悲しいような泣きたいような気持ちになってしまうのだけれどそれを誰かにうまく説明しようとして色々考えた…
朝起きたらなんだかまた右耳が詰まっちゃった感じがしたので病院へいく。耳の中をじっくりのぞかれ、それから聴力検査をして、結局異常なし。今のところ問題ありませんよ。治療の必要はないようです。物静かな医師が物静かに言った。 少し神経質になりすぎか…
牛模様の牛がもうもうと土煙を上げて突進してくるのだ。そこで私はメンソレータムを武器に迎え撃つ。牛だってメンソレータムを黒い鼻づらに塗り付けられるのは嫌なのだ。ましてや目の周りになんて塗られた日には、それはもう牛悶絶、ぎゅうの音も出なければ…
あーあ三連休もう終わり。せっかくの休みだっていうのに私のしたことといえば、洗濯と布団干しと腐りかけた木製ベンチの解体と、あとそれからインスタントラーメンを食べたくらい。そうそうすみっコぐらしパズルをするんですもしたっけ。あ、それから自転車…
時間なんて砂漠の砂みたいにずっとずっと途切れることなく流れ続けるんだと思ってた。気が遠くなるほどありあまってて、あんまり有り余りすぎるから頭おかしくなっちゃいそうくらいに思ってた。ああ、なんだかきっと若かったんだな。若くって、自分が若いっ…
今日は家中の窓を拭いて、それからカーテンを洗濯して、ほったらかしにしてたせいで徒長しすぎたハーブゼラニウムの群生をばさばさ切って、それからスーパーで大根とキャベツと、ジャガイモと、玉ねぎと、あとインスタントラーメンといかのお寿司を買って、…
今日の晩ご飯はそーめんにしようかな。やーれんそーめんそーめんそーめんそーめんそーめん、はいはい。 いやいや、なんかもう少し気のきいたこと書けるでしょーよ、とか思ったりもするけど、ううん全然気の利いた言葉なんか思い浮かばない。なーんにもない。…
あの子を愛してるってことが、結局わたしのすべてで、わたしの人生なんて、ただそれ意外になんの意味もなくて、それでこの先ろくでもないことしか待ってなくて、なんかわたし自分の人生棒にふっちゃったかななんて思っても、それでもあの子に会えて、体に触…
テレビを見てて、あっそうだったそうだったと思い出し、なんでだろうをギターで弾いてみる。なんでだろうのパレードは、なんだかとても楽しそうでうらやましいのだ。 我が家は総勢3人なので、ぬいぐるみの黒猫、三毛猫、ペンギン、きつね、がまがえるを従え…
最近全然日記も書かない。時々は、書きたいことがふわわんって浮かんできたりもするんだけど、そういうのって大抵通勤途中の車のハンドルを握ってるときとか、電車に乗ってるときとかだから仕方ない。結局そのまま忘れちゃう。ああ、何か書きたいことがあっ…
熱い毎日が続いていたけれど、今日は少し涼しい。 あしたも涼しいといいなあと思う。 踊る猫