男はハンカチで汗を拭きながら話し始めた。 「だいたいわかりました。いいですか、ここで少し要点を整理しましょう。あなたの主張はこうですね。『自分は確かにやんばるくいなであり、これまでも、これからもやんばるくいなであり続けることに対してなんら不…

眠れない。ゆっくり羊を数えてみる。羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹。やがて羊はくるくる回り始める。くるくる回って、回りすぎて、もう一体何匹いるのか数えられない。めぇめぇめぇめぇてんでにふわふわの毛が絡まりあって。いち塊＝何羊？解けない計算式が…

借りっぱなしでとうに期限の過ぎていた本を返して図書館を出たら、雨が降っていた。体にあたってそれと気づいたのじゃなく、幾何学模様に敷き詰められたレンガ色の敷石の上のポツポツした雨粒のシミのせいで、葉を大きく広げた木々の隙間から、どっちつかず…

いじの悪いひねくれ者の女神様がいきなり泉の中から姿を現わし「お前はこれから先の一生を永遠におしゃもじとして生きてゆくのです」と言うので、わたしは「それは困る。そんな風におしゃもじになって熱い炊き立てご飯の中に頭を突っ込まれたり、他人のご飯…

薄切り豚肉をおもむろに用意し、芯にいんげんやら人参やら海苔やら好みの具材と共にスライスチーズめを巻いてそれをフライにして真ん中でさっくり切ってお皿に盛ってみたらば、さぞかしうまかろうやと考え、おもむろに成してみれば、なんと憎っくきかな、あ…

自分の原風景だと思い込んでいたものが実はデジャビュだったことに気づいた時みたいな気まずさから逃げ出したくてつい意味のない独り言を呟いたら呟くその声が独り言にしては場違いに大きすぎてますます気まずさにどうしようもなくなるとか。まぁそういうよ…

コートのポケットに手を突っ込んだまま、随分漠然とした神様にお願いごとをする不敬な自分が面倒くさい。少し先の大きな横断歩道の信号が青に変わって駆け出して、駆け出しちゃってからそんな子供じみたかっこ悪い真似するんじゃなかったってまた後悔。だけ…

嫌なこととかしたくないこととか、別にそんなに頑張っちゃうことないか。掃除機のスィッチを切ってころんとホットカーペットの上に転がってみる。怒濤のように過ぎ去った一週間ちょっと息切れ。時々は自分のハードルを下げてあげてもいいよね、なんて思いな…