2016-01-01から1年間の記事一覧

さぼる

ああ、かったるい。かったるいと、かっとばせはちょっと似ているけど、その中身は全然違う。かったるいなんて、かっとばせの前じゃ恥ずかしくて顔も上げられない。なんたってかっとばせなんだから。かきーんと、かっ飛んでくことを祈念してるんだから、鼓舞…

運転免許センター

免許センターの駐車場であの子を待つ間、ずーっと空を見てた。高い建物も何もない、ずっと広がる青い空に、たくさんの白い雲が流れていく。冬の空は低くて、雲だって意外にそんな遠い存在じゃないみたいに感じたり。少なくとも夏の入道雲よりは。ずっと近し…

蜂蜜

朝、出勤途中に、保育園の入園式らしき、ちびっこさんとお母さん、おばあちゃんを見た。 おかあさんは赤ちゃんを抱いて、おばあちゃんはお兄ちゃんの手をひいて、みな一様にいかにも晴れの日にふさわしい服を着て、そうして晴れがましい希望に満ちた顔つきで…

とにかくの神様

桜の木のしたにピクニックマットをくっつけてひろげて少年剣士とそのお母さんたちと花見をする。不思議なことにこの公園の一角はむかしむかしは動物園だった。トラだとかぺんぎんだとか、ニシキヘビだとか、おサルの電車だとか。動物園が郊外に移転してしま…

命を連れてくる雨

雷が何度か鳴り、やがては空が黒く曇り、そうして激しい雨が降り出した。 雨はざあざあと横殴りに、駐車場のアスファルトから水煙が上がる。 むこうの道路を、ずぶぬれの女子高生がそれでも懸命に自転車を漕いで走って行った。かわいそうに。どんなに急いだ…

猫だけがこの世のすべての秘密を知っている

なんだか元気が出なくて左斜め下を向いたまま、生気のない顔つきで座り込んでるのがいよいよ嫌になったので、ふと思い立って試しに庭に出てしゃがみこんで地べたに近づいてみたら少し生き返った気がした。 冷たい空気と植物の匂いで胸が清々して、ああわたし…

いってらっしゃい

駅まであの子を車で送り、「じゃあね。気をつけていってらっしゃい」って言いながら後部座席を振り向くと、あの子は「うん」とだけ、ちらりともわたしのほうなんか見もせず、後ろ手にパタンとドアを閉めた。そうしてそのまま振り返りもせず、駅のコンコース…