2022-01-01から1年間の記事一覧

どすこい文学

ねこが背中をよじ登る冬。わたしにはよじ登ってくれる、ねこすらいない。 「ねこすらいない」って字面がちょっと「どすこい」に似てるね。 「どすこい」って打とうとしたら候補にドストエフスキーがでたよ。 なるほどね。「どすこい」って意外に文学的なのだ…

情緒的出勤の風景

自転車通学の女子高生が風に膨らむスカートを懸命に手で押さえながら走って行った。あの高校は確か今年からジェンダーレス制服が取り入れられてるはずなのに。それでもやっぱりスカートを好む女の子もたくさんいるんだろう。 走る車の助手席の窓を風に吹かれ…

気をつけてペンギン

デスクのわきのアクリルパネルに貼りつけられた金ちゃんヌードル1万円プレゼントの応募シール2枚をぼんやり眺めながらセブンイレブンのPBの炭酸水を飲んでるなう。炭酸水なう。応募シールなう。集まらないなう。1万円ほしいなう。応募できないなう。やる気な…

さらさ

洗濯機の底に見慣れた細長いボールペンサイズの何かが落ちているなと思い拾い上げてみると、それはまさしく細長いボールペンサイズのボールペンであった。私のお気に入りのSARASAであった。インクはすべて洗濯後のすすぎの水とともに流れ果て、何とも潔くも…

そういう日々

とんぼがすいーっと、目の前にとんできて、ふっと動きを止めたと思ったら、またすいーっと飛んで行った。 秋なんだよね、秋。 お構いなしに地球は裏返る。くるりんぱのどんでんぱ。 雲がずいぶん早く流れていく。空の上はここより風が強いらしい。 うまく風…

犬、ごめん

結局家族なのだ。 家族の亡霊から逃れることができなかったのだ。 そのせいでわたしは自分を、自分の若さを、自分の時間を犬にでもくれてやるみたいに無駄にしてしまったのだ。 いや、犬、ごめん。 いきなり悪口をいわれた犬もある意味家族の亡霊の被害者な…

心がそぼろ

わたしなんて心がそぼろみたいにぼろぼろでほろほろ。醤油と砂糖で煮詰めたら、さぞかし美味しいだろうねなんて、通りすがりのカラスが笑う。だからわたしも笑う。ほら、あなたも笑って。 指をひらひらさせるの。それが合図。 なんの合図かって? さてね。 …

それくらいの謎

朝起きて1時間くらいしたら、なんだか急に何もかもが嫌になってしまい、ああもう私なんか棒切れかなんかになってしまえばいいのに、いいや、ごまでもいい、ごまの一粒にでもなってすりつぶされてすりごまにでもなってしまえばいいのにと、なんだかめったやた…

かわいそうなハナミズキのために

すっかり枯れ果てていた木の枝に、ぎゅっとつぼんだ新芽がつき、そのうちの一つはあろうことか、もう双葉を開きさも春が来たかのようななりでいる。時が読めない哀れなつぼみなのか、最初のぺんぎんならぬ最初の双葉、誇り高きパイオニアなのか。 いずれにし…

連休前

そうか、生きてたんだ。 車のエンジンを止め、新しいマスクを真ん中でふたつに折りたたんで山折り線をつけている間に、思わずそんな言葉が口を突いて出た。 ただ唐突に、誰のことなのか何の意味かもわからないまま、私の口が動き私の声がそう言った。 最近は…

悪くないの魔法

芋を洗うような声で話しまくる女が今日も芋を洗うような声で話し、わめき、笑っていた。 いったいなんだってあんなにも芋を洗うような声なんだ。 芋を洗うような声のことを、心の中でずっと責めていたら、急にふと申し訳なくなった。 芋を洗うような声は地声…

しゅぱん

マスクなんかもううんざりだ。 そう思いながらブラインドをめくって外を見たら変な鳴き声の鳥が鳴いていた。あまりに変だったので姿を見ようとそのあたりを眺めまわしたけど、見つけられない。どこだどこだと思っている間に、もう声は聞こえなくなっていた。…

できるできるぞ

走って走ってずいぶんと懸命に走って、はっと気づいた時にはもうすでに猫になっていた。推進力を生むために遮二無二前後に振りまくっていた指先には尖った爪が、毛でおおわれた手の甲をひっくり返してみれば、そこには肉球がぺたんとかわいらしく、いや、か…

強い風

ひどく強い風が吹きつけてくる。 一体丸い地球のどこから、こんなにも一直線に強い風が吹きつけてくるんだろう。本当に地球が丸いのなら、強い風なんてみんな空へ飛んで行ってしまうはずなのに。 結局のところ、地球が丸いなんて案外嘘なのだ。 それからひと…

なんだかここ数日釈然としない夢ばかりみる。目が覚めてしばらくの間は、その釈然としない夢の中でも、ことさら釈然としない場面ばかりが思い浮かび心が落ち着かない。 怖いのか、嫌なのか、不思議なのか、なんでもないのか、いったいその夢をどう定義したら…

たまらない

もぐりこんでたんだよ。そう言いながらあの子が顔を出した。もぐりこんでたのかとわたしは思った。なるほどと思ったのか、どうでもいいと思ったのか、その点については考える必要もないことだ。そう思ってそれきりもう何も言わなかった。 黒猫が庭に入り込ん…

千と千尋とあの子

夾竹桃はこんなにも綺麗な花だったんだろうかと、白と千尋の歩く径の両脇に高く生い茂げ咲き誇る色とりどりの夾竹桃の花を見るといつもなぜだか少し悲しいような泣きたいような気持ちになってしまうのだけれどそれを誰かにうまく説明しようとして色々考えた…

朝起きたらなんだかまた右耳が詰まっちゃった感じがしたので病院へいく。耳の中をじっくりのぞかれ、それから聴力検査をして、結局異常なし。今のところ問題ありませんよ。治療の必要はないようです。物静かな医師が物静かに言った。 少し神経質になりすぎか…

もうもう

牛模様の牛がもうもうと土煙を上げて突進してくるのだ。そこで私はメンソレータムを武器に迎え撃つ。牛だってメンソレータムを黒い鼻づらに塗り付けられるのは嫌なのだ。ましてや目の周りになんて塗られた日には、それはもう牛悶絶、ぎゅうの音も出なければ…

おはよう

白む白む白む。朝は白む。天気のいい冬の朝の白みっぷりといったらない。白みすぎて厭味ったらしい白熊みたいだ。 「がほ?」いきなり名指しにされた白熊が素っ頓狂なうなり声でこっちを見る。すごく不満そうな顔で、すごく恨みがましい顔で。ふふふ、白熊は…