逡巡の数だけ

何を成し遂げようが何も成し遂げまいが結局人は死ぬんだよ。

高速道路を走る車の窓から見えるずっとむこうの杉の木にとまった黒いカラスが「かぁ」の形にくちばしをうごかしたと思ったら、それを聞きつけた耳ざといSiriがしたり顔で私にそう告げた。

なるほど、これは神様の使いとAIとわたしとの間での伝言ゲームなのだ。

でもね、Siri、その訳は本当に正解?黒いカラスは本当にそう言った?

Siriはだんまり。わたしの問いには答えない。どうやらSiriはカラスの言葉にしか反応しないらしい。

確かに。選り好みばかりの気まぐれな運命の女神ですら、結末としての人の死は覆せない。乾ききった砂漠ぐらいにカランと平等。

世界の全てが沈黙して無音に沈むくらい圧倒的平等。

残されたたくさんの物は、持ち主と一緒にその一生を終えるべきなのだろうか。

不在がくるりと踵を返し存在をつきつける。

おはらい箱の段ボールを逡巡の数だけ積み重ね、夫の実家を片つける。

かぁ。