わたしがあの子のことを大好きなのもあの子がわたしのことを大好きなのも、そんなことは言葉にしなくてもわかりすぎるくらいわかってて、だけどお腹いっぱいに食べてごろんとわたしにもたれてきたあの子の背中を撫でてたら、ずいぶんタイミングよくお母さん…

月曜日わたしは洗濯物を干しながら象のことを考える。象の灰色な頭に生えているブラシみたいに短くて堅そうなぱしゃぱしゃした毛のことを考えながら、脱水でよじれたタオルの皺のひとつひとつをきゅっきゅっと伸ばしてゆく。 火曜日のわたしは洗濯物を干し…

マイぷれすってなんかいい。なにがいい？って、そうですね、よくわかりません。わかりませんけど、なんかいい。なんかよくわかんないけどなんかいい。何でなんかいいって思うの？って、ええーっとそうですね、こんなわたしでも、こんなにも長く書き続けてい…

あの子が野外教育実習へ出かけていって、今夜ははじめてのお泊りで、それでわたしは朝から雲をふんでるみたいで、ああいつかあの子がわたしのところから離れていってしまったら、きっとわたしまた昔みたいに毎日毎日音楽を聴いたり本を読んだりするんだろう…

「少し眠りなさい」と言いながら女神様が頭を撫でてくれたので、ソファに横になって狐の抱き枕をふたつ重ねてこんこん眠る。ひとりごとが多い日は何もかもやめにしてただ眠りなさい。半分眠りに落ちながら女神様がそうささやいたような気がする。わたしが言…

たとえば、やけくそ感をどういうふうに表現するかと考えてみると、それはそれで随分たくさんなスタイルのやけくそ感の表現方法がこの世の中には存在するような気がするのだけれど、あくまでもそのような気がするだけなのだけれど、今のわたしに提起できる最…

わたしの家にはグリーンガムの噛みクズばかりがいっぱいあるの、くちゃくちゃ。キシリトールガム全盛のこの世の中だけどそれでもグリーンガムの噛みクズでいっぱいなの、くちゃくちゃ。がさがさくちゃくちゃぺっ、って毎日毎日グリーンガムは規則正しく消化…

上司から紙くずのようにくしゃくしゃに叱り飛ばされてる人たちに、こっそり「大丈夫。あなたにはまだ態度価値の実現がありますよ」ってささやいてあげようかななーんてことを心の中で考えながら、パーテーション越しの会話は一応聞こえてないってことにして…

あの子が随分たくさんの宿題の計算ドリルの問題を解いて解いて解き続けてるから、ねぇねぇ手伝ってあげようか、電卓でたんたんたんって手伝ってあげようか、ってすごくいい案みたいにして言ったら、すごくそっけなく、いい、って、いい、って、いい、ってた…

カードを通して通用口を出ると、濡れて歩くのにちょうどよい雨が降っていた。 雨粒は肩に頬に額に落ち、ほんの少し冷たくほんの少し気持ちよく、そうしてほんの少し悲しく優しく冷淡で。嬉しいのか悲しいのか安らかなのかそれともそれすべてなのか。ただ濡…

思い出すのはあの8月の早朝、ハイウェイのパーキングエリアで見つけたファーストフード店。期待に満ちた心でわさわさとグリドルの包みをあけがぶがぶがぶりと齧りついた直後のあのわたしのどうにもならない失意に満ちた間抜け面、信じられない味に口中粘膜…

電車の窓ごしに美しいんだか美しくないんだかそんな判断基準の網をするするスルーしてしまうくらいごく普通の田園風景だとか海だとかごちゃごちゃした町並みだとかが流れてゆくのをなんだか妙に安らいだ気持ちで眺めながら、ああきっと死ぬ時に思い出すのは…