とんぼがすいーっと、目の前にとんできて、ふっと動きを止めたと思ったら、またすいーっと飛んで行った。
秋なんだよね、秋。
お構いなしに地球は裏返る。くるりんぱのどんでんぱ。
雲がずいぶん早く流れていく。空の上はここより風が強いらしい。
うまく風をつかめないのか、地味な茶色の鳥が、ちっとも前に進めないまま雲の切れ間で両の羽をじたばたさせてもがいている。
うまく飛ぶこともできないなんて、鳥のくせにみっともない。
少し馬鹿にしたような哀れんだ目で見ているうちに、瞬間、突然にすいっとものすごいスピードで流れる様に向こうの屋根を超えて飛んでった。羽ばたきひとつせず、ぴんと伸ばした翼と流線型の胴体を、見事に風の流れに沿わせた美しく傾げたシルエットを残して。消えた。
あらあれ哀れなのは哀れんでた自分だっけ?ぽつん。
風を見つけたんだ。
そう思いながらあの鳥が見つけた風がわたしにも見えるんじゃないかと空を見上げて探してみる。
鉛筆で書いた筋みたいになって見えたらいいのにな。
そう思ってしばらく空と雲を見つめてたけど、ああいい年してこんなことに夢中になってちゃいけないんだったって思いなおして、マスクをかけ直して会社へ戻って、そうして仕事をする・・・ような、しないような。
本当はあともう少しだけ、あの大きな雲に後ろから追いかけてきた小さなちぎれ雲が追い付いて、うまくくっついて一つの雲になるかどうか見届けたかったんだけどね。
そういう日々。べんべん。